[3]症例報告

回復過程を追った2ケースを示す.

ケース1 O.K.56歳,男性,管理事務職
診断:脳梗塞
合併症:高血圧
機能障害:右側の不全片麻痛と感覚障害
現病歴:1999年8月12日勤務中,突然に右側上下肢の異常感覚と発話困難に気づく.救急病院に搬送され,左放線冠部の脳棟塞による右片麻痔と診断された.発症後,意識障害はなかった.入院1過後,患者はベッド周囲のつかまり歩きを開始した.10日後,右肩もわずかに動かせるようになった.9月9日、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院に転院した.入院時.杖なしで病棟内の歩行は可能であり,バーセルインデックスは100であった.したがって,入院患者としてのリハビリテーション目標は患側上肢の運動機能回復にあった.

初回評価(患側上肢):肩・肘・手関節の他動的関節可動域は正常範囲であった.右指先に軽度の異常感覚を訴えていた.肩・肘関節の分離運動も可能であった.手関節を随意的に伸展することはできず,中指から小指にかけて、屈曲・伸展運動が制限されていた.母指と示指は、中等度の努力によって,わずかに屈曲できる程度であった.MFSは50(MFT-S:16).図17に示すように.PI(つまむ)スコアは基準値よりも低い.RESによれば、4遇後のMFSは63(MFT-S:20)と予測され,その時期には鉛筆をつまみ上げ.数文字を書くことができそうである.

計画と当面の目標:患者は右手関節や手指の伸展ができるようになり、指腹つまみによる諸活動もできると予想された.1日60分,週5日の作業療法が処方された.プログラムは毎週MFT後に修正した.

臨床経過(図18):第1週の作業療法プログラムの目的は,肩関節屈曲,肘関節伸展,前腕中間位における手関節伸展,母指と他指との指腹つまみの随意的制御を促進することであった.以下の活動が選択された:

(1)スタンピング(直径:3cm,長さ:10cm):作業療法士は患者の手関節を伸展位に保持して,動作の介助を行う.1セッションは10試行、1日に5セッションを行った.

(2)ペグボード(直径:3cm)作業療法士はボードに20本の木製ペグを立て,準備しておく.患者はペグをひとつずつ指腹つまみでつまみ上げ,皿に運ぶ.1日5セッション行う.

1週後,PO(手掌で後頭部を触れる)スコアは3から4,PI(つまむ)スコアは0から1となった.次週のプログラムの目的は指腹つまみの機能と患側上肢の協調運動とを改善することであった.以下の諸活動が選択された:

(1)ペグボード(直径:1.5cm):ペグの大きさの違い以外は前週と同じである.

(2)木製ブロック(後方へ動かす):患者は450傾斜した板の前に立つ.板i・こは25偶の木製ブロックがベルクロで固定されている.患者はベルクロが添付されている布製の幅広ベルトを体幹につける.患者はブロックを患側の指腹つまみで板から取り上げ,ブロックを自分の背部へ運び、布製ベルトにつける.その後,非患側の手でブロックを布製ベルトからはずす.1セッションは25試行である.1日に3セッションを行った.

(3)描画:フェルト・ペンを用いて,白紙に縦横.対角線方向の直線を各50本描く.3週後.MFS(MFTrS)は59(19)となった.PIスコアは基準値よりも低い.正確な指腹つまみを回復することを目的にして,作業療法士は木製ペグを金属製ペグ(直径:0.5cm)に代えた.

最終評価:入院4週後,MFS(MFT-S)は63(20)であった.基準値と比べて,PIスコアは低く.PP(ペグボード)スコアは高くなっていた.患者は鉛筆で数文字を書けるようになった.図19にTSOとMFSの関係を示す.

患者は10月13日に退院し,通院して作業療法サービスを受けている.

ケース2 T.M.51歳、女性,主婦
診断:脳梗塞
合併症:高血圧
機能障害:左側の不全片麻痔と感覚障害
現病歴:1998年10月15日夕食後,患者は左半身の異常感覚に気づいた.翌朝,患者は歩くことができず,某病院に入院した.CT所見では,右内包に低吸収域があり,脳梗塞と診断された.患者は左上下肢を動かすことができなかったが,意識は清明であった.2週後,左下肢に随意的な動きが現れた.1月後,肩や肘もわずかながら動かせるようになった.11月24日,国立身体障害者リハビリテーションセンター病院に転院した.

初回評価:入院後1週以内に行われた評価では、バーセルインデックスは55,患側MFS(MFT-S)は22(7),非患側は100(32)であった.RESによる予測では,8週後のバーセルインデックスはおよそ90となる.患側上肢の関節可動域は正常範囲であった.表在感覚と深部感覚がやや障害されていた.自動的な肩外転や肘屈敵 手指屈曲が多少は可能であった.基準値と比較して,FE(上肢の前方挙上)スコアは低く,GR(握る)スコアは高くなっていた(図20).RESの予測では,4週後の患側MFS(MFT-S)は34(11)であり,上肢の前方挙上は450以上,介助なしでボールを握って保持できる.

計画と当面の目標:次週以降の作業療法の目的は肩関節の自動的可動域の拡大.随意的な手指伸展と握り・放しの再獲得であった.1日60分,週5日の作業療法が処方された.各種の活動は毎週MFT後に選択した.

臨床経過(図21):第1過,プログラムは上肢の自動的前方挙上の改善を目的とした.以下の諸活動が選択された:

(1)サンディング(自己介助):サンディング・ボードの角度は450,患者は椅子に座り,左手は手指開排位でサンディング・ブロックにべルトで固定する.ブロックの押し上げ,引き下げは右手を添えて行った.1セッションは10試行,1日5セッションを行った.

(2)輪移し(前方移動,自動介助運動:サスペンション・スリング):患者は輪投げの輪10本とポールが置かれた机の前に座る.左前腕をサスペンショ.ン・スリング(重量:1.0kg)で支え,輪を左手で握り、ポールに入れる.作業療法士は腕の動きを介助した.1セッションは10試行,1日5セッションを行った.

1週後,患者は左肩屈曲40°が可能となり,前腕を支えられてボールを握る,また机上の鉛筆をつまむことができるようになった.MFS(MFT-S)は31(10)となる.FEスコアはまだ基準値以下であった.2-3週の作業療法プログラムの目的は,肩関節の自動的可動域の拡大,物体を握る(つかむ),運ふ 放す動作の改善であった.諸活動は以下のように変更した.

(1)輪移し(前方へ動かす、自動介助運動:サスペンション・スリング).

(2)木製ブロック(前方へ動かす:自動介助運動):患者は机の前に座る.机上には10個の木製ブロック(一辺:5cm)がある.左前腕はサスペンション・スリングで支えられている.患者は木製ブロックをつかみ、横方向に運び、放して,机上に置く.この動作を反復する.毎日5セッションを行った.3遇後、MFS(MFTTS)は41(13)であった,FEは基準値になった.CC-1(立方体を運ぶ-1)、すなわち一辺5cmの立方体を1個,5秒以内に10cm以上前方に運ぶことができた.

第4週のプログラムの目的は.母指と他指による指腹つまみの改善である.選択した諸活動は以下のものである.

(1)輪移し(前方へ動かす:自動運動):1セッションは10試行,1日5セッションを行った.

(2)ペグボード:20本の木製ペグ(直径:3cm,長さ:8cm)が36×28のボードに立ててある.患者は1本のペグをつかみ,ボードから皿まで運び,放す.毎臥 3セッションを行った.

(3)レーシング:患者は円形の革製コースター(直径:9cm,厚さ:0.5cm)をレーシングする.左手で円形革を保持し,右手で革紐を通す.

最終評価:図22にTSOとMFSとの関係を示す.MFS(MFT-S)は作業療法開始4週後に44(14)となった.CCスコアは基準値よりも高い.FEスコアは基準値よりも低いが,短期目標であった上肢の前方挙上600、随意的指伸展,握る・放すの機能は4遇の作業療法で達成された.

投稿日:2000年3月31日 更新日:

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